麦畑って、ほんとうに絵になるの!?

日本の田園風景を象徴するものと言えば、田んぼ。
冬を越して、乾ききった土に水が引き込まれ、あっという間に風景が緑色に染まるのが、5月後半。それからというもの、私たちは稲の成長を風景の移り変わりのなかに見ながら、梅雨や、夏や、秋を過ごします。田んぼの風景には、日本人のDNAを刺激する何かがありますよね。

でも、麦畑ってどうなんだろう?
北海道や、ヨーロッパやオセアニアの国々を思い起こすことはあっても、身近に麦畑を見たことがある人って少ないのではないでしょうか?

30代も半ば、1990年前後のこと、麦畑を求めて世界を旅しました。某大手酒造メーカーの、麦芽100%のビールのCMを担当していたことがあり、麦畑を撮影するために、南はニュージーランドやオーストラリア、北はフランスからノルウェーに至る国々に、ロケハンや撮影で行きました。ヨーロッパなどでは当たり前の「ビールは、麦芽・ホップ・水から作るもの」という常識が、日本では通用しません。大手メーカーで麦芽100%と言えるのは、当時も今も、ほんの数種類のブランドだけ。だから、麦畑にタレントを立たせたり、収穫した麦を積んだ馬車に役者を乗せたり、麦を背景にビールグラスを撮影したりして、「麦芽100%の本格的なビール」を印象づけようとしました。ビールのCMは、春から初夏にかけてが最盛期ですから、撮影は、日本の冬の時期になります。自然と、季節が反対のオセアニア、特にニュージーランドで撮影することが多くなりました。

あ、つい脱線しちゃいましたね(笑)。
九州パンケーキのCMを撮影する上で、欠かせないのが麦畑、そんな話をしたいのでした。

パンケーキミックスの主役は、なんと言っても小麦です。製品の中身に入っている原材料が育っている畑を写す。その生産者の方に出ていただく。
堂々と、きちんと、商品の背景にあるものを加工や置き換えなしに表現する。
当然のことのようで、実は、CMとしては案外、画期的なこと(と同時に、困難なこと)だと思っています。

ぼくが、かつて麦芽100%のビールのCMのために、世界を飛び回ったことだって、それは単に「麦のイメージ」を表現するためであって、実際のビールの中身とは何の関係もありません。そのビールに使用されている麦芽の原材料はヨーロッパで生産されたものだと聞いた記憶はありますが、どんな畑で、どんな人たちが、どれほど食の安全性に配慮して、麦を育て収穫しているかなど、知る由もありません。まさか、そこに「不都合な真実」があったとは思いませんが、たとえば大手メーカーのパンケーキミックスの原材料である小麦の生産地を写すとなると、果たしておいしさの表現に適した環境や人であるかどうかは、大いに疑問です。
九州パンケーキのCMで、麦や米や雑穀など、パンケーキの素材が育つ風景を撮るのだと言っても、果たして絵になるのかどうか。心ある人、できることならこだわりのある人が作物を育てていて欲しいと思っても、実態はどうなのか。正直言って、不安でした。
新年早々から「オフコマーシャルを作ろう!」と、村岡さんや蓮井さんと盛り上がったのはいいけれど、気がつけば春になっていました。盛夏に収穫されるのだと思ってばかりいた麦が、実は5月下旬か6月はじめには刈り取りだと聞き、正直、焦りました。まず、ロケハンをしなければ。ほんとうに、胸を張って、「ここで育った麦で九州パンケーキが作られているのだ」と言える映像が撮れるのかどうか。そもそも、九州で麦が穫れること自体、意外な事実。美しい麦畑の風景が、もうひとつリアルにイメージできません。

そんなわけで、まずは5月下旬、ぼくと蓮井さんは熊本に向かい、村岡さんと落ち合って麦畑のロケハンをすることにしました。収穫を間近に控え、麦畑は黄金色に色づいていました。想像以上に広大な面積で畑は広がっています。CMの撮影!? 怪訝そうに生産者の方も来てくれました。聞けば、ぼくと同い年。直感的に、風景も人も、「絵になる」と確信しました。日焼けした、都会の人にはないまっすぐな笑顔。いかにもおいしいものを生み出しそうな、ゴツゴツした手。その人が麦畑に立つだけで、どこか説得力がありそうです。

畑のロケハンを終えて、ぼくらは九州パンケーキの製造元である熊本製粉にも足を伸ばし、工場見学をさせていただきました。村岡さんが、何度も足を運び、試作・試食を重ねながらようやくたどりついた、あの味と食感。商品開発を担当された方々の、この商品にかける想いに触れ、しっかりこの目で製粉される機械とプロセスを確認することができました。

ほんとうに麦や雑穀の畑、そして生産者の方たちを撮ることが、果たして絵になるのだろうか?
その不安は、このロケハンで解消されました。しかし、それからしばらく間を置いてお米や雑穀の撮影を開始した9月下旬。ぼくたちを待っていたのは、ただ絵になるというレベルを超えて、志高く、ほんとうのおいしさと、次世代にも安心して手渡せる米づくりや雑穀の生産に向き合う人たちでした。時を超えて美しい田園風景でした。
次回は、そんな話も交えて、いよいよはじまった撮影のエピソードなどお話したいと思います。今村直樹

麦畑って、ほんとうに絵になるの!?

日本の田園風景を象徴するものと言えば、田んぼ。
冬を越して、乾ききった土に水が引き込まれ、あっという間に風景が緑色に染まるのが、5月後半。それからというもの、私たちは稲の成長を風景の移り変わりのなかに見ながら、梅雨や、夏や、秋を過ごします。田んぼの風景には、日本人のDNAを刺激する何かがありますよね。

でも、麦畑ってどうなんだろう?
北海道や、ヨーロッパやオセアニアの国々を思い起こすことはあっても、身近に麦畑を見たことがある人って少ないのではないでしょうか?

30代も半ば、1990年前後のこと、麦畑を求めて世界を旅しました。某大手酒造メーカーの、麦芽100%のビールのCMを担当していたことがあり、麦畑を撮影するために、南はニュージーランドやオーストラリア、北はフランスからノルウェーに至る国々に、ロケハンや撮影で行きました。ヨーロッパなどでは当たり前の「ビールは、麦芽・ホップ・水から作るもの」という常識が、日本では通用しません。大手メーカーで麦芽100%と言えるのは、当時も今も、ほんの数種類のブランドだけ。だから、麦畑にタレントを立たせたり、収穫した麦を積んだ馬車に役者を乗せたり、麦を背景にビールグラスを撮影したりして、「麦芽100%の本格的なビール」を印象づけようとしました。ビールのCMは、春から初夏にかけてが最盛期ですから、撮影は、日本の冬の時期になります。自然と、季節が反対のオセアニア、特にニュージーランドで撮影することが多くなりました。

あ、つい脱線しちゃいましたね(笑)。
九州パンケーキのCMを撮影する上で、欠かせないのが麦畑、そんな話をしたいのでした。

パンケーキミックスの主役は、なんと言っても小麦です。製品の中身に入っている原材料が育っている畑を写す。その生産者の方に出ていただく。
堂々と、きちんと、商品の背景にあるものを加工や置き換えなしに表現する。
当然のことのようで、実は、CMとしては案外、画期的なこと(と同時に、困難なこと)だと思っています。

ぼくが、かつて麦芽100%のビールのCMのために、世界を飛び回ったことだって、それは単に「麦のイメージ」を表現するためであって、実際のビールの中身とは何の関係もありません。そのビールに使用されている麦芽の原材料はヨーロッパで生産されたものだと聞いた記憶はありますが、どんな畑で、どんな人たちが、どれほど食の安全性に配慮して、麦を育て収穫しているかなど、知る由もありません。まさか、そこに「不都合な真実」があったとは思いませんが、たとえば大手メーカーのパンケーキミックスの原材料である小麦の生産地を写すとなると、果たしておいしさの表現に適した環境や人であるかどうかは、大いに疑問です。
九州パンケーキのCMで、麦や米や雑穀など、パンケーキの素材が育つ風景を撮るのだと言っても、果たして絵になるのかどうか。心ある人、できることならこだわりのある人が作物を育てていて欲しいと思っても、実態はどうなのか。正直言って、不安でした。
新年早々から「オフコマーシャルを作ろう!」と、村岡さんや蓮井さんと盛り上がったのはいいけれど、気がつけば春になっていました。盛夏に収穫されるのだと思ってばかりいた麦が、実は5月下旬か6月はじめには刈り取りだと聞き、正直、焦りました。まず、ロケハンをしなければ。ほんとうに、胸を張って、「ここで育った麦で九州パンケーキが作られているのだ」と言える映像が撮れるのかどうか。そもそも、九州で麦が穫れること自体、意外な事実。美しい麦畑の風景が、もうひとつリアルにイメージできません。

そんなわけで、まずは5月下旬、ぼくと蓮井さんは熊本に向かい、村岡さんと落ち合って麦畑のロケハンをすることにしました。収穫を間近に控え、麦畑は黄金色に色づいていました。想像以上に広大な面積で畑は広がっています。CMの撮影!? 怪訝そうに生産者の方も来てくれました。聞けば、ぼくと同い年。直感的に、風景も人も、「絵になる」と確信しました。日焼けした、都会の人にはないまっすぐな笑顔。いかにもおいしいものを生み出しそうな、ゴツゴツした手。その人が麦畑に立つだけで、どこか説得力がありそうです。

(ここに写真入る)

畑のロケハンを終えて、ぼくらは九州パンケーキの製造元である熊本製粉にも足を伸ばし、工場見学をさせていただきました。村岡さんが、何度も足を運び、試作・試食を重ねながらようやくたどりついた、あの味と食感。商品開発を担当された方々の、この商品にかける想いに触れ、しっかりこの目で製粉される機械とプロセスを確認することができました。

ほんとうに麦や雑穀の畑、そして生産者の方たちを撮ることが、果たして絵になるのだろうか?
その不安は、このロケハンで解消されました。しかし、それからしばらく間を置いてお米や雑穀の撮影を開始した9月下旬。ぼくたちを待っていたのは、ただ絵になるというレベルを超えて、志高く、ほんとうのおいしさと、次世代にも安心して手渡せる米づくりや雑穀の生産に向き合う人たちでした。時を超えて美しい田園風景でした。
次回は、そんな話も交えて、いよいよはじまった撮影のエピソードなどお話したいと思います。今村直樹


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